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痴女メイド×ご主人様(老人)

NL小説

「本当は、初めから解っておられたんでしょう? 私が貴方へ向けた眼差しの意味を。そして、この胸に固く秘めたはずの願望も。だから貴方は身元も不確かな私を二つ返事で雇い入れたんだわ。即ち、それが何を意味するか――。わざわざ説明して差し上げる必要は、ありませんね」

凍てつく深夜、不遜にも、寝具に横たわったまま身じろぎひとつ出来ないでいた雇用主である私を頭上から見下ろしながら、彼女は纏った自身の衣服をまるでこちらにその様を見せつけるような仕草でゆっくりと、不必要なまでに丁寧な手順を重ねてひとつずつ寛げ、大胆にも脱ぎ捨てていく。

薄闇の中、眼前へと晒され始めた彼女の素肌は実に瑞々しく、仄かに紅潮すらしている事が窺える。朝露に濡れた季節外れの春牡丹のようだと、どこか傍観者のような心境で不覚にも心を奪われた私であったが、淡々とながらも激しい劣情を孕んで繰り出されていく独白の数々は半ば狂気じみていて、言い知れぬ不安や予感を萎み切ったはずの心臓へと塗り広げていったのである。

果たして、その不穏な感情が何なのか。私は、確かに彼女から説明されるまでもなく、理解をしていた。故に焦燥を覚え、狼狽し、そして、拒絶の言葉さえ浮かべる事も出来ないまま、ただこうして彼女に魅了され続けているのだ。

出会いは三年ほど前になるだろうか。それは最早、衣服とは呼べる代物ではない布切れをかろうじて纏い、足裏を砂埃で汚した彼女があくる日、我が屋敷の門を突如、叩いたのである。

彼女は言った。自分は、地獄よりも更に苛烈な苦境からようやく逃れ、此処に辿り着いたのだと。幕末の時代からこの現在、大正を迎えても尚、飛躍し続ける商社の長であるならば、いくらでも人の手が必要に違いないという目論見を抱いて彼女は私を尋ねてきたらしい。

無論、働き手は幾らあっても足りなかった。先祖が築いた盤石の礎の元、今もなお事業は拡大を続け、常ならばとうに隠居しているべき年齢にも関わらず、私は未だ自らの声が直接届く範囲の仕事には手を出し口を出し、繁忙期には朝から晩まで書類の束に判を押し続けている時さえあったのだ。

故に、私は彼女に懇願されるまでもなく、身の回りの世話一切を引き受けそつなくこなす女中を幾人も既に雇い入れていた為、果たして得体の知れぬ押しかけ女に分けてやることの出来る仕事などあるものかと始めは門前払いを試みようとした。

だが、しかし。突き放す言葉はとうとう最後まで口にする事が出来なかった。そして、私は憐れみを誘うように潤んだ彼女の眼差しの奥に、何かを感じ取ってしまったのだ。

それは、まさしく今、明確な意図を持って私に向けられた劣情と同じ熱、加虐性を孕んだ不埒な焔である――と。

そう、私は初めから気付いていた。そして十分すぎる程に、解っていたのだ。自身が巨万の富と地位を持て余しながら、何者かに手酷く虐げられたいと願っていたことに。そして、彼女こそが歪んだこの私の願望を忠実に叶えてくれる虐げし者だということに。

「私と貴方は、出逢うべくして出逢ったのです。何故なら、貴方は私をずっとずっと、求め続けていたのだから」

華やかな襞飾りのあしらわれた洋式の前垂れを取り払い、胸元で揺れていた帯紐、異国の地ではリボンと呼称されている愛らしい飾りをするりと引き抜きながら、彼女は裳裾を実にはしたない仕草でたくし上げた。そこから覗く太腿もまた程よい肉感と色を滲ませ、空腹すら誘う程である。

要するに、彼女の肉体は熟れ切っていたのだ。そして彼女自身もそれを自覚していたからこそ、この晩、夜這いを仕掛けてきたのだろう。己の価値を熟知し、機を決して逃さぬその強かささえ、彼女が抱えた劣情の一部であるような気がして、ただ感嘆の溜息を零すしかない。

「君は、どうして私のすべてを見透かしたのだ」

掠れた嗄れ声で尋ねたところ、彼女はその形良い口端をにやりと持ち上げながら、妖艶に微笑み、否――無知を装って言葉という明確な形を求める私を心の底から嘲笑した。

「愚問はおよしになって。私と貴方は、もはや言葉で互いを語らう必要など何処にもないの。そう、私たちは夜毎馬鍬う獣のようにただ肌を重ねて、婚姻を交わすわけでもなければ子を成すわけでもない――不毛な関係を築くことで存在意義を確かめ合うだけ」

遂に私の眼前へと、一糸纏わぬ彼女の裸体が晒された。

いつか貿易に力を入れていた頃、長崎の港で一目見た西洋の彫刻の如く、非の打ちどころなど一切見当たらない肉体の滑らかな稜線は、脂肪を失い、水気も失い、すっかり皴だらけに萎んでしまった私の肌をあわよくば膨らませる事が出来るのではないかと思わず期待してしまう程に魅力的かつ煽情的であった。

たわわに実った二つの乳房も、まさに収穫時を迎えた上等な果実のようでごくりと喉を鳴らしてしまう。

「あら、御主人様ったら。この暗がりでも分かるほど、いやらしい目で私を見ていらっしゃるのね。落ち窪んだその眼だけ、狼のようにぎらぎらと眩しくて――。ふふ、まるで野良犬のよう」

浴びせられる侮辱はどうしてだか、枯れた肉体に甘く深く染み込んでいく。

「さあ、貴方の裸も見せて下さいな。私がすべて脱がして差し上げましょう」

緊縛を受けているわけでもないのに、未だ冷え切った寝具へと仰向けに横たわったまま動けずにいる私の全身に、華奢な指先が這い回る。

寝間着も、下履きも、実に手際良く彼女は私の肉体からあっという間に取り払ってしまった。

「ようやく拝見する事が出来ました。貴方がずっと隠し続けていた、この欲望……。可哀想に、本当の悦楽を知らないまま、枯れ枝になってしまったのね」

彼女は鋭さを孕みながらもどろりと蕩けた、興奮と侮蔑の入り混じる眼差しにて私の下肢――もはや機能するかどうかも分からない性器を見下しながら、更にその可憐な頬を紅潮させる。

「すべてを私に委ねて下さい。貴方はただ、私の何もかもをされるがままに受け止めるだけ……」

砂糖菓子よりも甘い声音が、気候も相俟ってかすっかりと乾ききった鼓膜の内側へと吹き込まれ、途端にしっとりと湿り始めるのが分かった。

「ずっと、ずっと……。こうしたかった」

極上の色香と共に紡がれたその囁きは、聴覚ではなく、下腹へと直接響くような危険な気配を孕みながらも、どこか甘美な、夢見心地のような柔さを以て失われたはずの激しく身勝手な欲求を深淵から少しずつ引きずり出していく。

だが、ほんの微かに残った建前が、ふいに口を突いて零れてしまった。

「しかし、私の身体はもう――」

男としては役に立たないはずだと呟いたが、彼女はそれを気に掛ける事もなく、むしろそんな木偶と化した老体を弄ぶのが楽しくて仕方がないのだと言わんばかりの強引さで私の肉体へと跨ったまま、徐にその唇を萎れた男根へと寄せ、あろうことか口腔内へと咥え込んでしまったのである。

「……っ」

身じろぎひとつ出来なかったはずの肉体が、久方ぶりに味わう無遠慮な悦楽によってぴくりと微かに跳ね上がった。

性器へと熱を集めるだけの生命力と気概をほとんど失ったとはいえ、直接的な愛撫を施されてしまうと本能が疼き、どうしても悦びを体現してしまう。

そんな己を恥じ、思わず瞼を伏せて視界を閉ざしてしまったのだが、まるでその不甲斐ない仕草を咎めるかの如く彼女の愛撫は激しさを増していった。

未だ枯れ枝と化した幹はその硬さを取り戻す事もないまま、ぐったりと萎れ頭を情けなく垂れているというのに、腹の底からぐつぐつと沸き上がるようなこの熱情はなんなのだろう。

精神と肉体が切り離されたような、いやむしろ、心と身体の区別が失われるほどにすべてが綯い交ぜとなって形を失ったような、奇妙な感覚に包まれる。

堕ちているのか、昇っているのか、上下左右の判別すら付かなくなるほどの世界で私は自我を失い始めていた。

理解できることは、ただ一つ。彼女の体温と激しく燃える下心。

それだけがまさに、私のすべてと成りつつある。

「ぁ、ふ……」

艶やかな嬌声を零しながら、彼女は自らの口腔、奥深くまで私の性器を迎え入れた後、それをきつく引き絞るようにして頭を一息で退いていく。まるで容赦のない搾乳をされている牝牛のような気分だった。もはや蓄えていたはずの精液など一滴残らず枯れ果ててしまっただろうに、それでも彼女は執拗にその魅惑の唇で、舌先で、柔らかな口腔内の粘膜で、白濁を求めて愛撫の手を一切緩めない。

いや、むしろ――。彼女は私の子種など、始めから求めていなかったのだろう。私の性器が再び硬度を取り戻そうが、取り戻すまいが、恐らくどうでも良かったのだ。

彼女はただ、私の肉体を一方的に弄ぶことで悦びを得る人間であり、私はただ、彼女の何もかもをされるがままに受け止めるだけの――不甲斐ない老人なのだから。

「ふふ、御主人様ったら。目を閉じるなんて、悪い人……」

どれだけの時間、そうしていただろうか。私の枯れ枝を咥え込んでいたはずの彼女の唇が、いつの間にやら再び耳朶を甘く擽っていた。

「さあ、目を開けて。私を見て。貴方が今、誰にどんなことをされているのか、ひとつひとつをしっかりと自覚して貰わなくては。だって、私以外の誰かを思い浮かべてしまったら意味がないもの」

その切実な歎願は、今までに出逢ってきたどんな人間の言葉よりも鋭く尖り、同時に胸焼けさえ覚える程に糖度が高い。

そんな彼女に誘われるよう、私はゆっくりと重く垂れさがった瞼を開き、互いの吐息が触れあう程に接近していた彼女の端正な相貌を目の当たりにするのであった。

「嗚呼、やっぱり思った通りだわ。貴方の瞳は本当に素敵」

喜悦を浮かべたその表情は、やはり春牡丹の如く、可憐で、華やかで、温かく、美しい――そして、どこか危うく儚げだ。

「こうして一晩中、貴方と見つめ合っていたい。初めてお逢いしたあの日から、ずっとずっと焦がれていました。ねえ、御主人様。私は今日の為に自分を磨き続けていたのですよ」

ふと、彼女が私の身体を跨いだまま立ち上がった。

ぼんやりと見上げたその先、薄闇の向こう側に見えるは、生命の神秘である。

「ほら、見て……。貴方には指一本、触れられていないというのに私はこんなにもはしたなく濡れているの」

言いながら彼女は自身の細い指先を以て、惜しげもなく蜜壺の中、大陰茎を広げてみせた。

霞んだ視線の先、物欲しげに収縮を繰り返している彼女の膣内は、食虫植物を連想してしまう程に獰猛な趣さえ感じられる。

そして、そこからぽたりぽたりと滴る愛液はというと、飢えた獣の口端から垂れ流される唾液の如く生々しい。

「……ねえ、舐めて下さらない? 貴方に私の体内から溢れ出したすべてを啜って頂きたいの」

彼女はゆっくりと膝を折り、私の頭上をまるで排泄でもするかのような体勢で跨った。

「他人の体液を自らの臓腑に吸収して、ひとつになる……。愛情表現として、最も相応しい行為だとは思いませんか?」

肉厚の襞が、乾ききった私の唇に柔らかく押し付けられる。

瞬間、鼻腔を擽った生温かな湿り気に脳髄がどくりと脈打ったような錯覚を覚え、私は再び視界を閉ざしてしまいそうになる。

これほどまでに赤裸々な性欲に触れたのは、後にも先にもこの時だけだったかもしれない。先ほど彼女も語った通り、私は自らの意志で眼前の肢体を貪り、愛撫を施したりなど一切していなかったというのに、どうしてだか私は既に一晩中愛し合った後のような高揚と甘心に満たされていたのであった。

「そのまま、私の中を掻き回して……。はしたなく舐め上げて、みっともなく食らいついて欲しいの」

今夜、彼女がこの寝室に忍び込み夜這いを仕掛けてきたその時、私は美人局が如く、色仕掛けで我が一族の財産を我が物にしようとでも企んでいるのかと訝しんでいた。当然のことだろう、妙齢の女がわざわざ精根尽き果てつつある老人に自ら身を委ねるなど常識的には考えられない事なのだから。

だが、恐らく彼女は違う。この唇に押し当てられた彼女の膣、そしてそこから溢れ零れて止まない濃厚な愛液が齎したその本音は、あまりにも苛烈で淫らな欲望と加虐心だった。

初めて出逢ったあの日に感じた予感通り、彼女の全身が、そして魂が、私を求めていることが分かる。どれだけ目を逸らそうと、否定しようと、執拗にそれは私の目の前に姿を現しては大きく醜悪に膨らんでいくのだ。

同時に、私の劣情も比例して爪先から徐々に駆け上がり、蘇る。

「……あっ、ァ!」

気が付けば私は、自らの顔面に跨った彼女の腰を抱え込んで、一心不乱に差し出された蜜壺の中身を下品な水音をたてながらじゅるりと啜り始めていた。

「ん、んン……っ」

拙い舌技であったにも関わらず、私が肉の襞を舌先で割り開くたびに彼女は太腿を激しく痙攣させながら悦びを露わにする。

常であれば組紐でひとつに纏められているはずの長い黒髪を振り乱しながら私の上で妖しく身体をくねらせる彼女のその姿は、獲物に絡みつく大蛇、もしくは捕食中の蜘蛛に酷似していた。

「ふ、あああ……っ」

一際、大きな嬌声があがって彼女の全身が震えだす。

途端に更なる愛液が私の口内に溢れ広がって、より濃厚な雌の匂いを放ち始めた。

恐らく絶頂を迎えたのだろうと私は彼女の膣内から舌先を引き抜こうとしたのだが、ふいに後頭部を抱えられ、それは叶わなくなってしまう。

「駄目です、御主人様――。まだ、私は満足などしていません」

決して逃がすまいと彼女は私の自由を奪い取ったまま、更なる愛撫を懇願する。否、それは願いというよりも、ほとんど下命であった。

こちらの意志など全く考慮されていない、身勝手な欲望をあろうことか自らの主人に下し続ける彼女の姿は、古の時代、海を渡った彼方に存在していた独裁国の頂にて思うがままに邪悪を振りまいていたという女帝を彷彿とさせる。

爛々と輝くその双眸に宿るは、果てのない劣情と一歩間違えば憎悪に転びかねない凄まじいほどの愛情だ。

これほどまでに他人から愛された経験など、ない。自身もまた、これほどまでに他人を愛した記憶はない。

思考が、臓腑が、理性が、己のすべてが、焼け爛れて崩れていくような絶望にも似た浸食と背徳。それから、根拠のない充足感。

私は相も変わらず自らの後頭部を彼女に捉えられたまま、引き抜こうとした舌先を再び濡れそぼる肉壺の中に深く差し込み、激しい収縮を繰り返すその膣内を荒々しく――尤も、老いた私がいま繰り出す事の出来る精一杯の愚直さであったが――思うがままに、蹂躙をしたのであった。

「あ、う……っ」

見上げたその先で彼女は白い喉を大きく反り返しながら、声帯よりも更に深い場所から絞り出されたような、嬌声というよりはほとんど唸りのような音色を紡いでは私の拙い愛撫に合わせ、無遠慮に腰を上下させては細い腰を悩ましくくねらせ続けている。

「もっと、激しく求めてください……! 解るでしょう、貴方がいま口にしている私の性器がどれほど肉棒に飢えているのか。本来であれば、毎日だってこうしていたいのです。朝も晩も区別なく、貴方とこうしてただ動物のように交わっていたい……っ」

そんな切実なる願いを叫んだと同時、再び彼女は夥しい量の愛液を吐き出しながら全身を狂ったように痙攣させた。

「あっ、はァ……。ん、けれど……。貴方は、聊か歳を取り過ぎてしまったわ。もっと早くに出会えていれば、私も貴方もここまで飢えることもなかったでしょうに」

漸く、彼女はその腰を上げ、今度は私の腹を跨いで愛液や自身が零した唾液に濡れたこちらの顔を見下ろし、うっとりと美しい瞳を眇めてみせる。まるで、獲物を捕らえた猫のような愛らしさで。

「さあ、今度は私が貴方の枯れ枝を潤し、育てて差し上げましょう。性欲が衰えたとて、神経が鈍くなってしまったとて、雄という生き物は子孫を残さねばならないという本能を忘れることなど出来ないもの。ゆっくりと時間を掛けて、貴方の精巣が再び子種を作り出せるようご奉仕させて頂きますわ」

瞬間、彼女は劣情こそ覚えていたものの、未だ萎れたままの陰茎を徐に掴むとなんの躊躇もなくしとどに濡れた自身の蜜壺へと宛がい、半ばねじ込むような形で膣内へと咥え込んでみせたのである。

硬度がほとんどない私の性器は、もはや挿入とは呼べない仕草で押し込められ、窮屈そうにその幹を縮こまらせていた。

「ああ、勿体のない……。すっかりと萎れてしまって、実に憐れだわ」

明確な蔑みの言葉を浴びせながら、彼女は私自身をその窮屈な膣内の肉壁で何度も締め付け、ゆっくりと、そして徐々に激しく腰を振って更なる雌の本能を開花させていく――。

「あっ、ふ……! ン、御主人様……。いま、貴方の亀頭がほんの少し、私の性感帯を掠めたのが解りますか? ッ、んん! ほら、解るでしょう? ここを貴方に突かれるたび、私はこんなにも快楽を感じてしまうの。ああっ、もっと欲しい! もっと、もっと硬く尖らせた貴方の欲望で、私を駄目にしてください……っ」

律動の度、たわわに実った彼女の乳房が大きく揺れた。

とうに枯渇したはずだった私の中の雄が恐らくそうさせたのであろう、私は無意識にそれへと手を伸ばし、まずは下の方からそれを持ち上げるようにしてその重量感を味わってみる。

次に、感触を確かめるかの如く指先を柔肌へとほんの僅かに沈めると、八十年以上も昔、自身の記憶からはとうに消え失せてしまったはずである胎内での安らぎにほど近い本能的な心地よさを覚え、つい五指を蠢かせて母なる安堵に縋りついた。

猫や犬の毛並みを撫でている時とはまた違うその充足感は、それこそ喪われた性欲や野心、根拠のない衝動などが朧ろながらも少しずつ形を取り戻し、蘇るような――不思議な感覚である。

だが、それが刹那の夢だという悲しき未来も、なんとなく予感していたのだ。私はきっと、雄としての人生を自らの力を取り戻すことは不可能であろう。そう、彼女とこうして交わる事でしか、若かりし頃、確かに宿していた激情を思い出せなくなっていた。

そして彼女もそれを解っていて、私を組み敷いたのだ。自身と肌を重ねた時にだけ蘇るひと時を、この世でたった一人、独占してしまうつもりなのだろう。そんな欲深き彼女のなりふり構わぬ劣情が、どこか羨ましく思い始めていた。

「御主人様、もっと激しく私を掻き乱して……! ほら、乳房だけでなく――ここも、こんなに尖り切ってしまったから」

相変わらず彼女は激しく身勝手な律動を刻み続けながら、自身の胸元を貪る不埒な老人の掌を捕まえ、その指先をつんと勃ち上がった薄桃色の乳頭へと導いてみせる。

「さあ、思うがままに擦って……。そして、私をもっと乱れさせて」

促されるまま恐る恐る触れてみると、乳房の柔さとはうってかわって、その胸飾りは非常に硬くしこっていた。

それは男性器で例えるところの亀頭の先にも僅かに似ていて、なるほど、性器の先端が敏感な個所であるという事実は男女区別がないのだなと奇妙な関心を覚えながら私は指の腹でそこを何度も押し潰しては軽く擦ってみたりと、淫らな肉の芽を育てるように拙い愛撫を続けてみることにする。

「ああっ、ン……! 貴方の指先、こんなにも皴だらけになってしまったというのに、だんだん熱を帯び始めているわ……。ねえ、貴方は気付いていらっしゃるかしら? 私を嬲る掌に汗をかきはじめて……。ふふ、興奮しているのね」

指摘され、初めて気が付いた。

彼女の言う通り、私は頭上にて大きく揺れる乳房の膨らみと、それに付随する小さくも淫らな突起を弄んでいるうち、水分を失ったはずの掌へと薄っすら汗をかき始めていたのである。

ましてや真冬の深夜、暖炉さえないこの冷え切った室内では、若者であったとしてもこれほどまでに汗ばむ事は不可能に違いなかった。

「ァ、ふ……。んん、それだけじゃないわ」

ふと律動を止め、彼女が上体を屈めながら私の顔を深く覗き込む。

「私の中に受け入れた貴方の性器が、少しずつ膨らんでいるの」

――信じられなかった。

半ば強引に押し込められた膣の中、少なくとも十数年はその硬度を取り戻したことなどなかった自らの男根が再び息を吹き返し、あまつさえ若い彼女をここまで喜ばせることが出来るほどに熱を放ちはじめるとは。この現象は、奇跡と称しても差支えないだろう。

そして、己の高ぶりを自覚したその途端、現金なことに自分本位な衝動が腹の底から沸き起こってくる。

雄の本能に刻み付けられた浅ましい欲望がこうしてこの身に宿るなど、一体どれくらい振りのことだったか――もはや辿ることすら困難であるほどに遠い昔だったようにも思う。

「すまない、このままでは君を……っ」

食い散らかしてしまいそうであると乱れた呼吸交じりに零せば、彼女はほんの微か、驚いたようにその双眸を丸めた後、全身を悦びで震わせながら、実に凶悪な、それでいて至極幸福そうな表情で端正な顔立ちを溶かし、煩悩と汗にまみれた私を満足げに見下ろして、更なる狂気へと吞まれていくのであった。

「ああ、なんてこと……! 貴方にそんな事を言って頂けるなんて、貴方がそれほどまでに私を求めて下さるなんて……。やはり私たちはこうして結ばれる運命だったのね」

少しずつ熱を、そして硬度を取り戻しつつある私の性器をより深い場所まで迎え入れるべく、彼女の律動は殊更に激しさを増していく。

「あァ! んん、ふ……っ」

ある程度の硬さを持った陰茎によって性感帯を小突かれる感覚は、やはり萎れた枯れ枝をねじ込まれるよりも格段に具合が良いらしい。

私の亀頭が熟れた肉壁を割きながら最奥に到達するそのたび、理性など一欠けらも残っていない事が窺える、ほとんど絶叫に近い嬌声で彼女は己の全身を駆け巡る快楽の強さを赤裸々に語ってみせたのだ。

「ああっ、御主人様……! もっと奥まで、もっと深くまで……。私を穢して、私と溶けて……っ」

ほとんど半狂乱になりながら、私の上で荒馬を操る騎手の如く激しい律動を刻む彼女にいま浮かべられた表情は、痛いほどの切実さと、震えあがるような悦びに満ちて実に美しく、そして恐ろしい。

夜が明けた後、互いの関係性が今まで通りに行かなくはなってしまうかもしれない、日常生活に大きな罅や歪みが生じてしまうかもしれない――といった、一抹の不安が胸を過ったものの、下心をすっかり取り戻した私にはもはやそれらは大した問題ではなくなってしまっていた。

常識や建前など、明確な形を成す前にすべて跡形もなく劣情によって融解していくのだ。まるで、綺麗ごとなど私と彼女の間には不必要な異物でもあるかのようにそれらは徹底的に排除され、後に残ったものといえば先行きの見えない混沌、ただひとつ。それだけだった。

次に目が覚めたとき、私は凛と鋭くも清々しさを孕んだ冷気と、穏やかな日差しの中に横たわっていた。

首を巡らせてみると、昨晩、あれほどまでに乱れ切っていた彼女が頭髪や衣服の乱れをすっかりと整え、実にてきぱきとした仕草で天鵞絨の窓掛けを開いている姿にかち合う。

「お目覚めになられましたか。本日はとても良い天気ですよ」

私の覚醒に気が付いたのか、タッセルで窓掛けを束ねながら彼女はこちらを振り返り、劣情の余韻など微塵も残されてなどいない清廉な微笑をその端正な顔立ちに浮かべてみせた。

「本日は特に会食の予定も、立て込んだお仕事もありませんし……。港の方までお散歩など如何でしょう? 見頃の葉牡丹も咲いていて、きっと気晴らしになりますわ」

まるで昨日の出来事は夢幻であったかのように、彼女にも、そして私自身の肉体にさえも不埒な夜に際限なく湧いていた悦楽は一欠けらも見当たらない。

ああ、もしや――。あのひと時は、年甲斐もなく抱いた彼女への歪んだ想いが生み出した幻想に過ぎなかったに違いない、と。

寝床からゆっくりと起き上がりながら、私は自らの浅ましさを嘆き、そして心底、落胆をした。

よくよく考えてみれば、どれだけ彼女が献身的な愛撫を施したとして、この老いた枯れ枝が異性を狂わせるほどに性的欲望を取り戻せるはずなどないのだから。

「……そうだな、では朝食を摂ったら支度を始めよう。今日は一段と冷えるようだから、君も外套は忘れないように」

「ええ、お気遣いありがとうございます」

そんな当たり障りのない会話を交えた後、寝床を抜け出そうとした私にふと彼女が歩み寄って来る。

瞬間、私は昨晩と同じように、己の爪先から激しい奔流がこみ上げてくる感覚を思い出し、外気のせいではなく、荒ぶる激情によって思わず肌を震わせてしまった。

もはや力強く脈打つこともなくなっていたはずの心臓が、どくりどくりと大きく動悸を始める。

ああ、まさか――。あの交わりが、狂おしいほどの熱が、現の世で起こった事実であるというのだろうか。

「お慕いしております、御主人様……」

耳元で愛おしそうにそう告白した彼女の声色は、紛れもなく昨夜と同じ淫らで甘美な吐息により掠れていた。