無意識に視線が泳ぎ、ごくりと喉が鳴る。
今更、何を言い淀むことがあるのだ、と。何度も自分を奮い立たせたが、しかし――実際のところ、自らこのような提案を繰り出すのはとてつもなく気恥ずかしいものだった。
だが、いつまでも意気地のない様子を晒し続けるわけにもいかないと、裕也は自らの意志の硬さを確かめるように一旦、きゅっと口端を引き結んだその後、深呼吸をいくつか繰り返し、その間に溜め込んだ激情を少しずつ、ふいに溢れ出して彼女を驚かせたりなどしないよう、なるべく少しずつ吐き出すようにして言葉を絞り出した。
「あのー、その……。今夜の予定、空いていたりはしませんか」
瞬間、ただでさえ大きな彼女の瞳が、驚愕によって猫のように丸く見開かれる。
ああ、やはりらしくもない誘い方をしてしまったなと、早速後悔の念に苛まれる裕也であったが――。
「空いてる!」
言い訳を考える暇もなく彼女から齎された返答は、あまりに不器用過ぎるこちらの誘惑に、嬉々として飛びつかんばかりの『肯定』だった。
まずは自らがベッドに腰を沈めたその後、誘うようにそっと差し出した掌で彼女の指先を捕まえる。導く先は、自身の膝の上だ。
彼女は幾分か戸惑っていた様子であったが、ほんの僅かな逡巡の後、そっと裕也の膝上へと身体を預けて対面の姿勢へとやがては落ち着く。
「へへ、なんかちょっと恥ずかしいかも」
どちらかといえば、彼女は性交に関して大胆なところがある。
人目は一応、気にはするものの、見つかったら見つかったで堂々としていればいいと肝が据わっていたし、大胆な言葉と仕草で自らの腹に秘めたる劣情を表現する事も厭わない。
故に、今更こういったムードに気恥ずかしさを覚えるような性質ではないと思っていたのだが、どうやら裕也の抱える羞恥だとか照れ臭さだとかに彼女の方もあてられているらしい。
裕也の瞳を真正面から捕えようとはせず、白く透き通った頬をほんのりと赤く火照らせながら気まずげな微苦笑を浮かべていた。
「……今日は、一段と可愛らしい反応ですね」
それは、半ば本心であり、半ば軽口のつもりでもあった。
だが、彼女がそれを思いの外、真剣に受け止めたらしく生娘のようにあたふたと慌ててみせたものだから、情欲よりもまず先に庇護欲の方がこみ上げた。
試しに尖らせた唇を彼女の額に軽く押し当ててみると、同時に抱き寄せた肩が小さくぴくんと震える。
「ちょっと待って、裕也……っ」
「どうしました?」
「なんかちょっと、心臓うるさくて……」
言いながら彼女は纏ったシャツの合わせ目をぎゅっと掻き寄せ、落ち着きなく何度も瞬きを繰り返している。
これほどまでに純粋無垢な彼女を、自分は今から欲望で穢そうというのか――と、罪悪感がこみ上げないでもなかったが、そんなものはこちらの一方的な感情に過ぎない。
だが、せめてその後ろめたさを償うべく、自らの欲望を満たすよりまず彼女の充足を優先すべきだと、ともすれば激流の如く怒涛の勢いで溢れ出してしまいそうな性衝動を出来る限り抑え込みつつ、戯れのような口付けをまずは幾度も繰り返した。
下から掬い上げるようにして唇を軽く押しつけ、粘膜同士の触れ合いを堪能するような仕草で互いの熱を確かめ合う。
「ん……っ」
それはティーンエイジャーの初々しさにも似た、ほとんど児戯のような口付けだった。成人した大人同士が交わすそれにしては滑稽な愛撫の始まりであったが、にも関わらずこれほどまでに心身が高揚してしまうのは何故なのか。
「あ、裕也……!」
先に根を上げたのは、彼女の方だった。
粘膜の触れ合いに焦れたのか、彼女はひどく媚びた声音でこちらの名を呼び、情熱的に縋りついてくる。
「もっと、ちゃんとして」
求められるがまま、今度は食むような仕草を繰り返しながら舌先をそろりと口腔内に忍ばせた。
その後は、ほとんどなし崩しといっても過言ではない。
加減や自重をほんの一瞬、試みようとはしたのだが、一度でも深く触れあってしまえば最後、確かめ合った熱を互いに分け合い、奪い合うような情熱が際限なく燃え上がり続けるのだ。
「ン、あ……っ」
酸素を求めてなのか、それとも更なる刺激を欲しているのか、口付けの合間、物欲しげに切なく喘ぐ彼女の声が好きだった。
どこまでも快楽を求めながら、決して獣のように乱れるのではなく、小さな花が綻ぶような可憐さの残るその嬌声は、裕也にとっての甘い毒だ。
「ああっ、は……!」
彼女の華奢な身体を片腕で抱き留めたまま、もう一方の手をそろりと伸ばし、それを太腿からスカートの奥――待ちくたびれたとばかりに湿り気を帯びた下着の布地を指先で擽った。
「ン、ん!」
裕也の意図を察したのだろう、彼女の太腿はまるでこちらの指先を受け入れるかのごとく少しずつ開き、期待に肌を震わせている。
試しに探り当てたその秘所、愛液を滲ませるショーツのクロッチ部分を軽く掻いてみせると、腕に抱いた彼女の体温がより一層、熱く高まるのがはっきりと分かった。
「はァ、っ! ン、ああ……」
ほんの僅か、指の腹を手前に滑らせてみると、布地越しにも伝わるほどにポツリと膨らんだ硬い隆起へと辿り着く。
「美咲は確か、ここを触られるのが好きでしたよね」
耳元で囁けば、問いかけを肯定するかの如く、彼女は自らの頬を甘えるように裕也の首筋へと摺り寄せた。猫のようなその仕草は、愛らしくもあり、どこか艶めかしくもある。
「今日は、たっぷりと時間を掛けていきましょう」
「ン、裕也……」
「して欲しい事があれば、言って下さいね」
真っ赤に染まった耳朶に唇を押し当てながら、声というよりも、ほとんど吐息に掠れた囁きを零せば、彼女の肌は更に粟立ち艶やかに汗ばんでいく。それが、あまりに倒錯的だった。
より一層、しどけなく開かれていく内股の誘惑に導かれ、裕也は布地越しに押し当てた指の腹を、まずは小刻みに痙攣をさせてみる。
事実確認を言葉で行ったわけではなかった故、あくまでもこれは裕也の所見なのだが――恐らく彼女は人一倍、陰核への刺激に敏感な性質だと考えている。単純な快楽の強さでいえば、膣内を穿つそれよりも、こうして陰核になんらかの愛撫を施している時の方がより大きいのではないだろうか。
そんな裕也の懸念を裏付けるかのように、彼女は断続的な嬌声を小さく零し続け、早くも弛緩している様子であった。
「あ、はァ……っ」
それでも刺激を与えるたび、力が抜けきっている彼女の筋肉が反射的な痙攣を起こす様は実に倒錯的で、まるで無抵抗の相手に悪戯でも仕掛けているような妙な気分にならざるを得ない。
「気持ち、良いですか……?」
恐る恐る尋ねると、彼女は潤んだ双眸でこちらを見上げ、小さくこくりと頷いた。
それならばと、裕也は更なる悦楽を彼女に齎すべくショーツの隙間から指先をそっと潜り込ませ、愛液滴るその場所へと直に触れてみる。
人肌の熱っぽさ、そして興奮による高揚感に満たされたそこは既に熟しきっており、裕也の理性や自制心をあまりにも容易く揺るがし、打ち砕くほどに強烈だった。
「挿れます、ね」
ゆっくりと指を沈めていけば、まるで挿入を待ちわびていたかのように粘膜がくちゅりと淫らに啼く。
「君は、どうされるのが好みでしたか? 教えて下さい」
じわじわと昇り詰めたいのか、激しく急き立てられたいのか。
赤く染まった耳朶を濡れた吐息で撫でながら問いかけると、彼女はほんの僅か、その双眸を拗ねたように眇めて恨めし気にこちらを見下ろしてみせた。
「なんで、そんなイジワルするの」
「意地悪なんてしてません」
「だって、恥ずかしいことばっかり言わせようとしてる……っ」
生娘のような初々しい様子に、思わず裕也は口端を綻ばせてしまう。
普段は彼女の方がよっぽど大胆な振る舞いでこちらを翻弄しているくせに、立場が逆転するとここまで人は変わるのかと半ば感心を覚えつつもこみ上げる愛情を堪え切れない。
「恥ずかしがってる君も、素敵ですよ」
囁きながら、沈めた指を試しに細かく振動させるように動かしたその途端、膝上に乗せた彼女の背が大きくしなった。
「あう、っ! やァ、はあン……」
まずは、小さな火種を育てるように少しずつ。次第に、その灯を大きく煽るように力強く――。ただ彼女の中に燻る快感を膨らませる事のみに注力して、絶え間ない愛撫を裕也は刻み続ける。
時に掻き回すように、時に突き動かすように。緩急をつけて抜き差しを繰り返しながら、気まぐれに親指の腹で陰核を押し潰す仕草も忘れない。
「あっ、あ! だめ、全部きもちいいから……っ」
裕也の鍛え上げた背に縋りつき、より一層の快楽を強請っているのか、それとも止めてしまいたいのか。判別のつかない泣き言を零しながら、彼女は全身を震わせた。
「全部、ですか。頑張った甲斐がありました」
「もう、裕也……! あァっ、ヘンになっちゃう……」
「是非、見せて下さい」
物欲しげに収縮を繰り返す粘膜内の最奥にて、鉤を作った人差し指で溢れ零れる愛液を掻き出すように刺激を与えると、ほどなくして彼女のすべては決壊する。
「ああっ、ンあああァ!」
踊るような激しい痙攣を見せながら、彼女は絶頂の波に呑み込まれていった。
「ン、ああ! ちょっと、裕也……っ」
だが、裕也は愛撫の手を緩めない。それは決して彼女を悪戯に責め立てたかったからではなく、執念にも似た恋慕がそうさせたのかもしれない。
「だめ、またイッちゃうから……」
「いいじゃないですか。きっと、気持ち良いですよ……っ」
こちらは未だ愛撫らしい愛撫など施されていないというのに、どうしてだか早鐘のように鼓動は高鳴り、弾むように息があがった。
彼女の全身が感じる悦楽と興奮が伝播するように、裕也の体温も次第に上昇していく。
彼女の絶頂は、自身の絶頂だ。裕也は知らず知らず、彼女を高めながら自身の劣情をも育て上げていたのかもしれない。
「ああっ、ふあァ……!」
「美咲……っ」
鎮めた指先を締め付ける粘膜の感触で、彼女が再度オーガズムに達したことを悟る。その刹那、愛液とはまた別の飛沫が彼女の白い太腿、そして裕也の指先を妖しく濡らす気配を察し、ふと視線を落としてみると――。
「あ、ァ! だめ、裕也……。とまんない……!」
それは、所謂『潮吹き』と呼ばれる現象であった。
性器に与えられる機械的な刺激と、心理的な安堵感が上手く合わさった時に起こる生理現象だと言われているが、その特性故、そう簡単に体験出来るような代物ではない。
特に女性という生き物は男性と異なり、射精という明確な合図を持たない為にこういった目に見える形で快楽が吐き出される機会など滅多にないのだ。それを目撃できた喜びは、ひとしおだった。
「沢山、感じてくれたんですね」
度重なる彼女の絶頂は、裕也の肌に、そして脳髄に、とてつもない刺激となって波及する。
もっと、こうして彼女が乱れる姿を見たい。何度でも彼女を絶頂へと導いてやりたい。何度でも、何度でも――。
「あああァっ、あ!」
「っ、美咲……!」
堪え切れず、裕也は衝動に急き立てられるまま、下着の中から引っ張り出した愚息を濡れそぼる彼女の膣へと突き立て、律動を繰り返していた。
うねる膣内はいつも以上に窮屈で、このまま食らいつくされてしまうのではないかという妄想につい囚われてしまう。
いつしか一方的に快楽を享受する立場であったはずの彼女は、裕也の膝に乗り上げたまま今度は自ら積極的に腰を振り、再びのオーガズムを求めて貪欲なまでにそれを求めた。
「ン、裕也……! ああっ、ごめん……! もっと、欲しくなっちゃったから……」
「っ、いいですよ。君が望むなら、いくらでも……」
求められ、拒絶や手加減など出来るはずもない。彼女が欲するものを、否――欲した以上のものを与えてやりたい。それだけが、裕也の抱く唯一の欲望だった。
「んああ! ッ、きた……。裕也、またイク……っ」
そうして互いの欲求が激しくぶつかり合い、食らい、食らわれを繰り返した後に待っていたものは、終わりのない淫楽が大きく爆ぜるような絶頂の証だった。
それが訪れた瞬間、もはや声さえ失う程に感極まってしまったらしい彼女は裕也の身体に縋りつきながら、下腹をびくびくと痙攣させつつ再度無色透明の迸りを噴き出し、溺れていた。
瞬間、裕也の思考もまた、白濁に染まって飲み込まれていくのが分かる。空虚のような充足と脱力感は、瞼にチカチカと眩しい瞬きを伴う程の衝撃を伴いながらも、どこか仄かに温かく穏やかである。
「美咲……」
すっかりと脱力した彼女の身体を抱き留めながら、裕也は乱れた呼吸を整えつつ熱の余韻へと呑み込まれていった。