「ちょっ、美咲!」
頭上からほとんど悲鳴のような声があがったような気もしたが、しかし美咲は一切、意に介すことなどなく、咥えたスラックスのジッパーをそのまま降ろし、まずは下着越しに彼の欲望を甘噛みした。
そこは美咲の奇行とも思える突然の前儀に動揺しているのか、既に多少の硬度を持ちつつある。はむ、と軽く食らいつく度にびくりと震える感触がなんだか妙に愉快で、つい悪戯にその絶妙な柔さを何度も味わってしまっていた。
布一枚に隔てられているとはいえ、口腔内に含んだその熱、その感触、そして徐々に硬さを増していく有様は妙に生々しく、常ならば人目に晒されることのない彼の動揺が赤裸々に剥かれているようで興奮を覚えずにはいられない。
「ふふ、恥ずかしい? 恥ずかしそうだねえ」
見上げたその先で、頬一面どころか両耳に至るまでをまるで茹でだこのように赤く染め上げた彼の表情は、実に情けがなく可愛らしかった。
眼鏡レンズの奥、焦燥のあまり見開かれた瞠目の瞳が特に絶品であるとほくそ笑みつつ、美咲は躊躇なく下着の中から彼の性器を遂に引っ張り出してしまうと、焦燥を浮かべた顔をじっと見据えたまま、わざとらしく大きく開いた唇でそれを呑み込んだ。
「っ、こら……!」
反射的に飛んだ叱責は上擦り、快楽への期待が否応なしにも滲んでいる。普段は気難しく、素気のない彼が見せるこういった取り乱した姿は何より美咲の欲望を増長させ、抱えた愛しさを際限なく膨らませていくのだ。
いつだったか、本人にそれを打ち明けたところ『非常に悪趣味だし、意地が悪い』と一蹴されてしまったが、そうは言いつつも拒絶を示さないあたり、彼も自身がらしくもない姿を暴かれる行為に背徳交じりの悦楽を覚えているのかもしれない。
「ン、もう先っぽ濡れてる……」
まずは物欲しげに震えている亀頭の先を、尖らせた舌で蛇の如くちろちろと刺激する。
早くも滲み出していた先走りのほろ苦さに思わず口端を歪めつつ、改めて彼の表情を見上げてその変化をじっくりと観察してみる事にした。
「……っ、く……!」
嬌声を堪えているのだろか、もはや制止の言葉すら繰り出す事が出来なくなったらしい彼は、ギリ、と奥歯を強く噛み締めることで与えられる愛撫に耐えている様子である。
我慢など、すればする程に大きく爆ぜる事実をいつになったら学習するのだろうか。否、理解していても尚、忍耐を過信しているところが彼らしいといえば彼らしいのだが。
「もっと、気持ち良くしてあげるね」
言いながら美咲は今度、下着の中から引きずり出したそれを口腔全体で包み込み、唾液を多分に含ませながらわざと下品な水音をたてつつ、粘膜で容赦なく扱き始める。
「あ、う……っ」
「んふ、ひもちいい?」
咥え込んだまま尋ねると、声の振動さえ敏感なその場所には刺激と化けるのか、見上げたその先で彼の表情が何かに耐え忍ぶかの如く大きく歪んだ。
寄せられた眉根に、薄く眇められた双眸、そして強く引き結ばれた唇は、凄まじく色香に溢れているのと同時に、どこか滑稽な愛らしさも窺える。他人に我慢を強いるのが、これほどまで愉快な遊びだったとは――思わぬ大発見であった。
「ん、ン……っ! ふ……」
「美咲、やめて下さ……っ」
拒絶を口走りながら、彼は伸ばした指先で美咲の髪を遠慮がちに掻き混ぜる。
「ヤメテじゃなくて、もっと――でしょ?」
「違います……っ! ホントに、僕は……」
震える声音は、今にも泣きだしてしまいそうだった。
そもそもの話、椅子に深く腰を掛けたまま、半ば無理やり押し開かれた足の間に入り込んだ美咲にこのような無体を強いられているのだ。肉体の反応はどうであれ、被害者意識が芽生えるのも無理はない。
とはいえ、彼は男なのだ。それも、そこらの一般男性とは違い、巨悪を相手に戦い抜く為の強靭な肉体を纏った、屈強な猛者である。
本気を出せば、いくら急所を握られていようとも美咲を引き剥がす事など容易だろう。それどころか、懐へ潜り込まれる前に距離を取って反撃を繰り出すことさえ簡単なはずだ。
しかし、彼はそうしなかった。美咲の脈絡のない奇行をただ傍観し、あまつさえそれを許容している。
要するに彼は、美咲に対してとびきり甘く、寛容な性質なのだ。所謂、惚れた弱みというやつだろうか。どこまでも不器用で、可愛らしい男であるとほくそ笑まずにはいられない。
「んっ、ん! あは、もう出ちゃいそうだね」
口腔の粘膜越しに感じる熱の高さ、そして溢れる先走りの量から察するに、裕也は今にも頂きへと昇り詰めてしまいそうなのだろう。
愛撫の合間にそうからかうと、彼は図星を突かれたことによる気まずさなのか、視線をふいと逸らして長い睫毛を諦めたように震わせた。
追い打ちをかけるように、より激しく口淫を仕掛けたところ、案の定それは大きく弾けて美咲の喉奥目掛けて迸る。
「ッ、はぁ……!」
「ン、う……」
彼の高まった体温を示すかの如く、飲み込んだ飛沫は熱かった。
ああ、早くこの熱を自身の性器でも受け止めたい。性感帯のすべてを掻き回して欲しい――。
下品な妄想ばかりが駆け巡り、いまだ彼から何の愛撫も受け取っていないにも関わらず美咲の膣はじわりと湿り気を帯びた。
徐々に熱を失い、萎みつつある欲望を含んだまま思わずごくりと喉を鳴らしたところ、頭上で艶やかな吐息が零れる。
恐らく、達したばかりの性器を刺激してしまったのだろう。絶頂を通り過ぎても尚、抜け出せない快楽がもどかしいのか、彼は苦悶の表情を浮かべて深呼吸ばかりを繰り返していた。
瞬間、再び沸き上がる悪戯心と好奇心。このまま口淫を続け、何度も絶頂を与えた時に彼はどんな反応を示すのだろう。
「ちょっ、美咲……!」
再び性器を喉の奥深くまで咥え込み、容赦のないディープスロートでそれを激しく責め立てる。
「っ、イキました、から……! 止めて、ください……ッ」
震える声音はほとんど涙ぐんでいて、余計に美咲の加虐心を煽り立てる。
男と女ではそもそも身体の構造が異なる故、快楽の強さや種類も多少の齟齬は生じるだろう。が、頂に昇り詰めても尚、そこから延々と転落し続けるような、断続的な快感から逃れられない状況へと追い詰められた時、どれほど取り乱してしまうかくらいの想像は容易だ。
万が一、美咲自身が絶頂のその向こう側へと強引に導かれてしまったら――軽く想像を巡らせただけでも恐ろしく、凄まじいほどに背徳的だと思わず口端を三日月に歪めた。
「駄目、です……! また、出る……ッ」
そんな弱音が艶っぽく零れた瞬間、反射的に『いいよ』と言葉で促しかけたが、既のところで呑み込むと、口腔内の粘膜でよりきつく咥え込んだ熱の幹を締め付けることで無言のままに促してみせる。
何故なら、この責め苦を一度きりで終わらせるつもりがなかったからだ。
今日は、何度でも彼に劣情を吐き出して欲しい。吐き出して、吐き出し尽くして、例え最後の一滴まで絞り切ってしまったとしても、冷めない興奮を与えてみたい――。
「あァ、っ」
「ふ、ンン……!」
ほどなくして迎えた二度目の絶頂は、先程と比べて少々控えめなものだった。間を置かずに立て続けの状況では無理もなかったが、やはりどこか『前回を越えられなかった』という悔しさを覚え、美咲は、むうと眉根を寄せてしまう。
ならば、三度目はがむしゃらに追い立てるのではなく、彼の欲望を十分に育て切ってから解放を促すべきだと思い至り、今度は一度、含んだそれを粘膜の中から引きずり出し、舌先を存分に用いて丁寧に舐め上げる愛撫へと専念した。
「う、ァ……」
止め処なく突端からは快楽の証である精液がどろりと溢れ続けていたというのに、二度目の絶頂を経験した彼の性器はその硬度を以前と保ち続けたままであった。それどころか、更に大きく膨らみ始め、より熱を貯め込み始めた様子にも見える。
やはり、急き立てるよりも時間をかけてじっくりと気長に育て上げるやり方の方が正解だったらしい。
丹念に育て上げた幹から、果たして今度はどれほどの迸りがこの喉に流れ込むのだろうと期待が膨らみ、堪え切れず美咲は再び濡れそぼる亀頭に吸い付くと、相も変わらず慎重に、しかし彼の睾丸から徐々にせり上がりつつある熱の放出を促すように舌先を細かく蠢かした。
がむしゃらに追い立てずとも、もはや彼の性欲は美咲の肉体で掌握したに等しい。物欲しげにパクパクと開閉を繰り返しているそこを小刻みに突いてやるだけで、絶頂のコントロールなど容易いものだ。
「っ、あ……! はァ、っ……く!」
本人にそのようなつもりはなかったのだろうが、彼はくぐもった嬌声を零しながら、溜め込んだ精液を生暖かい粘膜の中へ一滴残らず注ぎ込まんとする勢いで腰を震わせつつ美咲の後頭部を抱き、ぐしゃりと髪を掻き混ぜる。
「いっぱい、出たね」
気持ち良かった? と尋ねれば、彼は呼吸を荒げたまま、ほとんど据わった熱っぽい双眸でじとりと美咲をねめ付けた。
「わざわざ、声に出して言わないで下さい……ッ」
それは紛れもない恨み節であったが、蕩けた声音で囁かれたその言葉は、今の自分にとって睦言同然だ。そして彼自身も、今はどんな憎まれ口を叩いたとしてもすべてが逆効果であることを自覚している。
「でもね、今度はアタシの中に裕也の挿れて欲しいんだ。ねえ、いっしょで? 裕也の頂戴?」
そこからは、ほとんどなし崩しだった。
美咲は自ら服を脱ぎ捨て、ほぼ無抵抗状態の彼を組み敷き、三度の射精を経験したにも関わらず、未だ硬度を失わない彼の性器をなんの躊躇もなく自らの膣に突き立て、それを深々と呑み込んでいく。
「あは、まだ先っぽだけなのに……。アタシの中で、裕也がビクビクしてるの分かる。可愛い~」
心なしか呑み込んだそれは、より熱く大きく膨張しているようにも思えた。
口腔内とはまた別種の粘膜に改めて包まれた彼の性器は、何度も痙攣を繰り返しながら狭い膣内を無遠慮に割り開きつつ、最奥目指して沈んでいく。
「ほらァ、どんどん奥まで入っちゃうね?」
美咲はあえてゆっくりと焦らすように、そして深く呑み込みつつある熱を要所で意図的に締め付けながら、時間を掛けて結合する。
何度も繰り返した絶頂の為か、彼の感度はいつにも増して研ぎ澄まされているようで、美咲が意地の悪い腰のくねらせ方をするたびに、皮膚が、筋肉が、爪先が、そして性器がその動揺を示すかの如く大袈裟に震えるのが堪らなかった。
「裕也ってば、ぴくぴく反応しちゃって……。ねえ、分かる? こうやってアタシが腰を振るとぉ……。ふふ、裕也のココがビクンって跳ねるの」
言いながら美咲は立てた人差し指で、彼の下腹、臍から下生えにかけての稜線を擽るようになぞり下ろす。
すると驚いたことに、そこは細かく痙攣を繰り返しながら激しく跳ねまわり、やがて力を失ったように、すうっと皮膚が萎んでいく。
もしや、達してしまったのだろうかと思わず美咲は目を丸めたが、しかし――自らの子宮内に白濁が注ぎ込まれた感触はなく、彼の性器は未だ硬度を保ったままだ。
「ねえ、裕也。もしかして……」
これは、ドライオーガズムというやつだろうか。
「イッちゃった? アタシの中で、精子出さずに空イキしちゃったでしょ。そんなに気持ち良かったんだ」
覗き込んだ彼の顔は、もはや表情がどろりと蕩けてしまっていた。
律動によって傾いてしまった眼鏡のフレームも相俟ってか、乱れ切ったその姿は、逞しい体躯に似合わぬ被虐的な色を纏って実に危なげで背徳的である。
「ふふ、そっかぁ……。裕也は、女の子みたいにイケるようになったんだね?」
アタシと同じだ、と耳元で囁けば、傾いた眼鏡のレンズ越しの双眸はより悩ましげに潤み、隠しようのない情欲を湛えて切なく煌めいた。
「じゃあ、今度はアタシの番だよ。どうすればいいのか分かるよね? だって裕也は今、女の子と同じなんだから……。自分がされたいこと、アタシにすればいいだけだもん」
「っ、美咲……。僕は……!」
「二人で気持ち良くなろ?」
そこから先は、もはや互いに本能だけがすべてだった。
意図などなく、ただ目先にある快楽だけを求めて穿ち、腰を振り、舌を絡ませて、きつく抱きしめ合う。ただそれだけだ。
表面張力に耐えかねた水が溢れ出すように、咳を切ってとめどなく零れた欲望は、留まる事を知らない。