一度眠ってしまったら目覚ましのアラームが鳴るその時まで、そう滅多に覚醒する事のない裕子の意識が、あの日、あの夜――何かに導かれるようにして眠りの中から浮上したのは、いま思えば「運命」だったのかもしれない。
時刻は午前零時を過ぎた頃、裕子は静寂に満ちた自室内の煎餅布団にて、何の前触れもなくふと目を覚ましてしまった。
冷房の効いた部屋の中にも関わらず、肌のどこかで感じ取る事の出来る熱帯夜の気配は幼い頃に過ごした夏休みの高揚を意図せず裕子の中へと蘇らせ、全身へと重く纏わりつくまどろみとは裏腹に、入眠へと続く扉を固く閉ざしてしまうのであった。
幾度かの寝返りを繰り返した後、ここはホットミルクでも飲んで高ぶってしまった気持ちを抑えようと裕子は布団の中から抜け出すと、学校からの帰りしなに購入したばかりの牛乳を求めて自室と居間とを隔てる襖をそっと引き開けた。
「……あれ?」
瞬間、視界に飛び込んできたのは薄闇ではなく、煌々とした照明の灯りである。
もしや、就寝時にうっかりスイッチを切り忘れてしまったのだろうかと一歩を踏み出したその時、居間の隅の方、四肢を大きく投げ出しながら寝息を静かに繰り返す兄の姿を見つけてしまった。
そういえば今日は帰りが遅くなると言っていたが――もしや、今しがた帰宅したところなのだろうか。よくよく眺めてみると、衣服も今朝出掛けて行った時に身に着けていたものを一式纏ったままであった為、入浴をする余裕もなくこの居間で力尽きてしまったであろう事が容易に窺えた。
「お兄ちゃんったら……」
いくら気温の高い季節とはいえ、こんな所で寝入ってしまっては身体に障ると裕子は兄、哲也の元へと歩み寄ったのだが、これほどまでに疲労困憊としている彼を無理やり起こすのも気が引けてしまい、熟考の末、畳んでおいた大判のタオルケットをせめて寝具の代わりにとその投げ出された身体へと優しく掛けてやるだけにお節介は留めておく。
この体たらくを見るからに、もしや夕食すら摂れていないのではと不安を覚え、裕子は自分用のマグカップの他、兄の分もホットミルクも用意してやろうと、なるべく物音を立てぬよう気を使いながらどうにか二杯分の牛乳を温め、卓袱台の上へとそれらをひとまず並べて再び意識を失ったままでいる兄の表情を間近から覗き込んでみた。
少々乾燥している様子の肌と、薄っすら滲み出すようにして微かに伸びた無精髭は、兄の働きぶりを目の当たりにせずとも、その労働内容がなかなかに過酷であることを饒舌に物語っており、生活の為とはいえここまで無理をさせてしまっている現状に裕子は心を痛めずにはいられない。
彼が大学進学を諦めたように、自身も高校受験を投げ出してでも就職をするべきだったのではないか、と。しかし、裕子の進学を誰よりも望み、そして実現の為に奔走したのは他でもない、哲也自身であったのだ。
――お前は何も心配するな。俺が全部引き受けてやるから。
いつだったか、兄はそう言って無理をするようになってしまった。
遊び盛りだったというのに、両親を亡くしてからは学業など二の次にしてアルバイトに明け暮れ、親戚から持ち掛けられた金銭的援助や奨学金制度すら辞退して今の仕事に就いたのは、確かもう七年ほど前の事である。
当時の裕子はランドセルを背負った無邪気で無知な小学生であった故、そんな兄の複雑な葛藤や胸の内に秘めた想いを知る由もなかったが――しかし。中学を卒業する頃にもなると、無意識に悟ってしまうのだ。自らの人生を犠牲にしながら、たったひとりの家族である裕子の為に生きようとしている兄の献身的ながらも、どこか痛々しくも思える悲しい姿に。
「ごめんね、お兄ちゃん……」
呟きながら裕子は恐る恐る伸ばした指先で、兄の黒髪をそっと梳いてみる。
無造作に散らされたその毛先は肌と同様、水分を失って気の毒なほどに乾いた手触りであった。せめてそんな彼の為に今度、少し奮発して何か良いシャンプーやトリートメントでもプレゼントしてみようか。それとも、腕によりをかけた料理で栄養をふんだんに摂ってもらった方が良いだろうか――。
そんなとりとめのない思案の狭間に、突如「魔」が差し込んでくる。否、それはほとんど無意識で、潜在的な欲求が意図せずに溢れ出してしまった半ば事故のようなものだったかもしれない。
かさついた髪を繰り返し何度も梳いているうち、裕子はその身を屈めて静かな寝息を繰り返している兄の唇へと、自身のそれをそっと重ねてしまっていた。
「あ……!」
実の兄に対して敬愛には程遠い、激しい恋慕が爪先から駆け上がり、たちまち裕子の全身を蝕んでその肌を赤く灼いていく。触れた唇からそれは血流に乗ってあっという間に隅々まで波及して、間近から見下ろしていた兄の瞼が開いたのは、そんな焦がれるような感覚が溢れたのとほぼ同時であった。
「ご、ごめんなさい! お兄ちゃんの寝顔、近くで見てたら……。あははっ、ちょっと距離が近過ぎちゃったかな。ホントにごめん!」
踏み越えてしまった一線から飛び退くように、裕子は自らの過ちを冗談という体で誤魔化すべく乾いた笑いを零したが、未だ畳の上へと寝転がったままこちらを唖然と見上げている兄の表情から察するに、知られてはいけないはずの想いが軽率な行動によって露呈してしまったのだと図らずも察し、裕子は密かな恋の終焉を予期してしまう。
「裕子――」
名前を呼ばれ、肌がぴくりと小さく震えた。
兄のことだ。恐らくはこちらが抱いた恋慕に何か言い訳を与えた上で遠回しに禁断の恋を嗜めるのだろう。兄妹として、家族として、それは当たり前の反応であり、正しい行動だと頭では分かっている。
分かった上で、聞きたくなかったのだ。自らの想いを打ち砕いてしまうような彼の言葉を。
「……っ、ごめんなさい!」
絞り出した数度目の謝罪は、とうとう動揺と絶望を隠しきれず涙で滲んでしまっていた。
耐えきれず、裕子は折角用意したホットミルクもそのままに自室へと慌てて駆け戻り、逃げ場を求めるようにして布団の中へと潜り込む。
どうしてあんな事をしてしまったのだろう。寸でのところで我慢が出来ていれば、少なくとも恋心を密かに抱き続ける事だけは許されていたかもしれないのに、と。自らの軽率さを今更責め立ててみたところで何もかもが既に手遅れだったが、それでも裕子は自責の念に駆られずにはいられなかったのだ。
夜が明けると同時、兄の記憶が――否、自身の愚行も帳消しになっていれば良いのにと切に願いながら薄手の掛け布団の中、身を震わせていたその時である。
「……裕子」
頭上から、兄の声がした。
「少し、話せるか」
抑揚を噛み殺したようなその声音に、嫌な汗が吹き出しそうになる。
「大事なことなんだ」
「……聞きたくない」
「いいから、俺の方を見ろ」
瞬間、無慈悲にも自らの殻となっていた掛け布団が剥ぎ取られ、眼前に思い詰めた表情の兄の姿を見つけてしまう。
同時に、裕子は思いもよらぬ感情の籠った双眸を目の当たりにすることとなり、激しい戸惑い、そして微かな悦びへと苛まれていった。
「おにい、ちゃ……」
どうしてそんな顔するの――と尋ねようとした、その時である。
俯きがちだったこちらの表情を必死に覗き込もうとしていた兄がその唇をきゅっと真一文字に結んだかと思うと、あろうことかそれを今度は彼の方から、裕子のそれへと深く重ねてきたのだ。
「ン……!」
触れ合った粘膜から熱く流れ込んできた激情は、紛れもなく兄妹の範疇を越えた恋慕であった。
それは裕子が兄に対して抱いたものと同じ程に、否――もしかすると、それよりも更に激しく熱烈な感情であったのかもしれない。
「裕子」
何度も繰り返される口付けの合間、下唇の粘膜は未だ触れ合ったままである至近距離から兄がこちらの名を呟いた。
「頼むから……。俺のこと突き飛ばして怒鳴りつけて、最低の兄貴だって言ってくれよ。でないと、止まれなくなる――」
熱っぽく掠れた吐息と共にそう懇願する兄であったが、それが彼の本心ではないことを、裕子は嫌でも悟ってしまう。
これは夢だろうか。まさか、自身の想いが、そして欲求が、想い人である兄とまったく同じだったなんて。
感激のあまり、裕子は胸に溢れた悦びを言葉に表すことが出来なくなっていた。その代わり、布団の中から伸ばした腕を兄の首へときつく絡め、力強く抱き寄せることで己の答えをどうにか示してみせる。
突き飛ばせるわけがない。怒鳴りつけられるわけもない。ましてや、裕子によって彼が最低な兄であるはずもない。
誰よりも大好きで、何よりも大切な、たった一人の家族であると同時に裕子の恋心を捧げた人なのだから。
「ン、ぁ……」
再開された口付けは先ほどよりも更に深く、粘膜同士を重ね合わせるだけに留まらず、果ては舌先さえも互いの口腔内へと潜り込んでその存在を確かめるかの如く執拗に、そして情熱的に絡み合う。
こんな感覚、初めてだった。異性――それも、ずっと想いを寄せていた人間との触れ合いが、ここまでの背徳と悦楽を伴うものだとは、性経験のない裕子にとって非常な驚きであった。
交わった場所へと快感が生じるのは勿論のこと、触れられていないはずの場所にまでそれが波及し、先ほどから下腹の辺り、膣の入り口付近が浅ましく喜ぶようにひくひくと収縮を繰り返しているのが分かる。未経験ながら、自身は心の底から兄のことを求めていたのだなと改めて自覚すると同時、乱れ狂いそうになる姿を知られてしまったらどうしよう、と羞恥とも嫌悪とも付かぬ複雑な感情に飲み込まれつつ、与えられる愛撫に少しずつ溺れていった。
「あ、あァ……っ」
いつの間にやらパジャマの裾から潜り込んでいた兄の熱い掌が裕子の細い腰、そして薄い肌を撫でたその瞬間、意図せず蕩けた嬌声が溢れ、疼き続けていた子宮口の辺りが殊更に甘くビリビリと痺れる。
「裕子、俺はお前に何かを我慢させたくない。だから――」
耳朶に吹き込まれる兄の甘い囁きは、懸命に堪えている様子ではあったものの際限なく込み上げる性的興奮によって低く掠れ、より一層、強烈に互いの背徳を煽り立てていく。
「全部、教えてくれ。痛いのも、気持ち良いのも、嫌なことも、嬉しいことも……。一つ残らず知りたい」
「ん……っ、うん……」
裕子は何度もこくこくと頷きながら、兄の逞しい首へと回した腕に更なる力を込め、しばし逡巡の後、幼い頃に何度縋りついたか分からない肩へと赤く染まった顔を埋めつつ自らの欲求をぽつりと呟いた。
「いっぱい、触って欲しい。お兄ちゃんに触られるの、好きだから」
「……っ」
瞬間、彼が息を呑んだのは罪悪の為か。それとも欲情か。
その後、兄の方も裕子と同じようにしばらく何かを考え込んでいた様子であったが、やがて意を決したように顔を上げると自らの肩に埋まった妹の黒髪を優しく撫で梳きつつ、潜りこませたその掌を、今度はブラジャーの内側へと差し入れてみせた。
柔い膨らみの感触を確かめるような仕草で蠢く五指は裕子に遠慮でもしているのか、少々の躊躇いが感じられたものの、込み上げる劣情には抗えないようで不埒な気配が隠しきれていない。
そんな兄の不器用なところさえ愛しく思ってしまうのだから、きっと自分は彼がどんな大罪を犯したとしても受け入れてしまうのだろう――と、己の盲目さを改めて実感しながら裕子は不慣れな悦楽に身を軽く捩り、しかし更なる刺激を求めて浅ましく肌を震わせた。
「……恥ずかしい、か?」
乳房の丘陵をなぞりながら、兄が尋ねる。
「ん、恥ずかしいけど……。でも、なんか嬉しくて……」
赤く染まった肌の上に羞恥が塗り重ねられていくたびに、快楽へと貪欲になっていくような危険な感覚が恐ろしくも心地良かった。
「もっと、いっぱいシていいよ。私はもうお兄ちゃんのものだから、痛いのも恥ずかしいのも、きっと悦んじゃう……」
「っ、お前は……!」
これ以上、煽ってくれるなと半ば吐き捨てるように毒づきながらも、愛撫を施すその手つきは相変わらず優しく愛しい。
本音を言えば、兄が兄らしさを捨て、男として自分を求め欲する姿を見てみたいという気持ちもあった。両親の他界以降、長男としての振る舞いを少しも崩さなかった彼がその本能を剥き出しにする様、それも実の妹である裕子自身に理性を乱され獣になりゆく姿は、ほんの僅かな慄きの反面、ひた隠しにされていた彼の核心に触れられたような気がして、独占欲が満たされるような、身勝手な満足感が胸の内いっぱいに広がっていく。
「あ、ふ……っ」
もどかしさ、そして不慣れという事も相俟ってか、裕子へと覆い被さるような形となった兄は煩雑な手際でパジャマの上下、そして弄っていたブラジャーを取り払ってしまった後、幾分かの躊躇を挟み、その顔を今度は露わとなった双丘の片方、期待に震えてピンと勃ち上がり始めている乳頭の先へと深く沈めてみせる。
瞬間、訪れたのはぬるりとした奇妙な感触だった。
それが舌先だと気がついたとき、羞恥とも悦楽とも付かぬ電流のようなパルスが爪先から鋭く駆け上がり、知らず裕子の節という節を艶かしく妖しげにくねらせる。
「んん……っ、あ……」
堪えようと唇を噛み締めてはみたものの、転がすように乳頭を湿った舌体で捏ねられるたび、どうしても鼻から甘く吐息が溢れてしまうのを止められなかった。
そこは母乳を摂取する赤ん坊の為の器官であるという知識しか持たない裕子にとって、乳頭に生じた疼くような快感はなかなかに衝撃的なものだった。同時に、自覚していなかった性感帯を一つずつ兄の手によって暴かれていく様に半ば倒錯的な愉悦を覚え、踏み入れてはならない禁忌に身を沈めていく危うさに心地よく溺れつつあった。
「お兄ちゃ……っ、ン! ぁ、きもち、いい……」
多少の羞恥を覚えながらも、しかし自らが兄の手によって悦楽に犯されつつある様を正直に伝えたい欲求にどうしようもなく駆られ、裕子はもじもじと身を捩りながら嬌声混じりに睦言を紡ぐ。
「恥ずかしいけど、どうしよう……! すごく、お兄ちゃんの舌があったかくて、気持ち良くって……」
「……もっと、して欲しいか?」
「ん、うン……っ」
問いかけに何度も頷けば、乳頭に絡みついた舌先はより大胆な動きでその突起を硬く育て上げ、更には赤ん坊が母乳を求めて吸い付くように、兄もまた裕子のそれを自身の口腔にて絶妙な力加減を以て搾り上げ、新たなる刺激を初心な肉体に惜しげもなく齎したのであった。
「あ、なんかヘン……。お兄ちゃん、お腹が、あつい……!」
心地良くも刺激的な愛撫に溺れるうち、下腹の辺りが奇妙な熱を持ってそこに心臓があるかの如くどくどくと脈打ち始めた為、裕子は脈絡のない焦燥を覚え、半ば恐怖や戸惑いの入り混じった興奮に囚われる。
それが絶頂の前触れである事を知る由もない裕子はというと、自身の胸元に顔を埋めたまま愛撫の手を止めない兄の後頭部を力強く抱き、未知なる奔流にただ身悶え、啼き喘ぐことしか出来ないでいた。
ふつふつと、腹の奥底で煮えたぎっていたそれが噴火の如く、激しい激流となって溢れ出したのはその直後である。
「ああああっ」
先程から疼き続けていた下腹が、そして膣口が狂ったように何度も激しく痙攣を繰り返し、血流に乗せて快楽物質を全身へと怒涛の勢いで巡らせていく。
直後、訪れたのは強烈な余韻を伴う脱力感だった。
「あ、ふ……っ」
「裕子、大丈夫か?」
少しずつ呼吸は整い始めてはいたものの、未だ性器にはべっとりと絶頂の余韻が張り付いて離れないまま、裕子を、そしてそんな裕子を組み敷く兄の哲也さえも快楽の檻に固く閉じ込めている。
「ああ、もしかしてお前……」
覆い被さっていた兄がほんの僅か身体を起こし、多少躊躇いながら薄っすらと開かれた裕子の脚の間、下着のクロッチ辺りを覗き込んだ。
「……身体、辛くないか? 悪い、手加減出来なかった」
申し訳なさそうな言葉を呟く彼であったが、涙に滲む視界の向こう側に見えるその表情は何かを必死に堪えているかのような、隠し切れない獰猛さが垣間見えている。
ふと視線を巡らせると、裕子はそこに不自然な光景を見つけてしまった。
兄が履いたスウェットの、ちょうど下腹部の辺りである。見慣れぬ大きな膨らみを見つけ、いったい何事であるかと考えを巡らせたその時、いつだったか保健体育で学んだ男性特有の生理現象がある事に思い至ったのだ。
それは即ち、興奮の証。裕子へと悦楽を与えながら兄もまた、不埒な感覚に惑わされて高ぶっていた事を視覚で知り、堪らなく嬉しい気持ちになる。自身だけではなく、兄もまた淫らに堕ちてくれていたのだ、と。気恥ずかしいながら、どこか誇らしく、想い人にようやく妹ではなく「女」として認識されたという事実に酔い痴れた。
「ン……っ、大丈夫だよ。すごく気持ち良かったし、それに私の身体まだなんかヘンな感じで――」
もっともっと、乱れてみたいのだと視線で訴えれば、兄は興奮に侵されながらもどこか辛そうに顔をしかめたまま、もどかしそうに裕子の下着へと手を掛け、それをゆっくりと丁寧に取り払ってみせた。
「ぁ、やだ……!」
一糸纏わぬ姿になった事によって、裕子はようやく自身の肉体に起こった変化を知る事となる。
更なる悦楽を欲して疼き続けている性器、膣から溢れた愛液が鼠径部まで濡らしてしまう程に垂れ流されていたのだ。
まさか粗相をしたのだろうかと思わず不安を覚えたものの、瞬間、躊躇なく兄が今度はそこへと顔を埋め、あろうことか舌先を蠢かせたものだから思考はたちまち桃色に染まる。
「おにい、ちゃ……! ァ、そんなとこ汚いよお……っ」
だが、兄は止まらなかった。決して強引さは感じられなかったものの、まるでそこに宝があることを確信した探検家のように、しとどに濡れた脚の付け根、果ては大陰唇の辺りにまで吸い付き、乳頭を愛撫した時と同様、快楽をまんべんなく塗り広げていく。
自身ですらじっくり触れた試しのない性器を、よりにもよって実の兄、そして最愛の異性でもある哲也に愛撫されているという事実は、唇を重ね合わせた時や乳房を弄ばれた時よりも更なる背徳を伴って裕子の理性を蝕み、跡形もなくどろどろに溶かしてしまった。
「ああっ、そこ……! だめ、気持ち良すぎて、だめえ……っ」
特に膣の先端辺り、属に言う陰核を尖らせた舌先で突かれるたび、乳頭へと生じたものより更に過激で強烈な鋭い痺れがそこから波及して、性器からより粘着質で濃厚な愛液を溢れさせていくのであった。
「やだ、私だけこんなに気持ち良くなっちゃうの……。やだ……!」
だが、自分ひとりだけが取り残されてしまっているような、寂寥を覚えていたものまた事実である。
「お兄ちゃんにも、気持ち良くなって欲しいのに……。私ばっかり、やだよ……!」
どうすれば兄にも自身と同じ快楽に溺れてもらえるのか、その具体的な術を知らない裕子は幼子のようにただ愚図り、どこか窮屈そうにスラックスの中で解放の時を今か今かと待ち続けている彼の欲望が荒ぶる様を見たいのだとはしたなくせがんだ。
「だから、どうしてお前はそうやって俺を煽ることばっかり……っ」
その声音に滲んでいたのは、噛み殺しきれなかった下心だ。
「ここから先は、俺もお前も……。本当に、取り返しがつかなくなっちまうんだぞ。いいのか、裕子」
ここで今更思い止まり首を横へと振れるほど裕子は我慢強くなどなかったし、彼の方もそんなこちらの心情を分かり切ったうえで問い質しているような、無意味な駆け引きじみた確認だった。まるで、最後の一線へと踏み出す許可を待ち望んでいるかのように。
「……いいよ、もう戻れなくても。だって、私はお兄ちゃん以外の男の人とこんな事したくないし。私が好きなのはこれまでも、これからもお兄ちゃんだけだから……」
だから、何をされてもいい。何をされても構わない。自分の中に渦巻く恋情ごと一つ残らず奪い去って欲しくて仕方がなかった。
「私は、お兄ちゃんだけのものなんだよ」
「……ッ、裕子……!」
押し開いた両脚の狭間に、兄の腰が滑り込んでくる。
そして洪水でも起こしたかのように濡れそぼった膣口に押し当てられたものは――熱く猛々しくそそり勃った彼の欲望だった。
「挿れるぞ、力抜け」
甘く掠れた宣言と共に、蠢く粘膜を割り開きながら兄の楔が潜り込んでくる。
瞬間、覚えた感覚は痛みでもなければ不和でもない。あまりにも純粋無垢で透明な「悦び」と「充足」だ。
予想していたよりも遥かに大きく、そして遥かに熱く硬いその性器を蠢く粘膜で意図せず締め付けるうち、どうしてだか兄がどれほどに興奮しているのか、同時にどれほど裕子を想っていてくれたのかがはっきりとした形を以て流れ込んでくるような錯覚に陥ってしまう。
例えそれが自惚れや勘違いだったとしても構わないと、裕子は思った。肉体的な繋がりから得られることの出来る満足感は、それほどまでに高く甘く、蠱惑的だったのだから。
「んっ、ああ……! ッ、はァ……。お兄ちゃんが、お兄ちゃんが、私の中にいる……」
伝った涙は紛れもない、歓びの雫だ。全身が歓喜に震え、滲む汗も、震える肌も、蠢く膣内の粘膜さえも、なにもかもが実の兄である哲也のすべてを欲して全身を目まぐるしく巡っていた。
「っ、は……」
ゆっくりと時間を掛けて根元まで自身を埋め込んだ後、兄は伸し掛かるように組み敷いた裕子へぴったりと覆い被さりながら、恐らくは真っさらな粘膜と怒張した熱が馴染むのを待っているのだろう、もどかしそうな仕草で微かに腰を揺らしつつもこちらを安心させるように首筋や頬への優しく柔い口付けをそっと繰り返している。
「苦しく、ないか……?」
耳朶を食みながらほとんど吐息のような囁きで尋ねられ、思わず裕子は嬌声をあげながら受け入れた兄のそれを更にきつく締め付けてしまった。
「……裕子、っ」
「ふ、ああ……。ン、苦しくないから、もう……!」
掻き回して、突き上げて、すべてを壊して欲しかった。
男性経験が皆無であったにも関わらず、律動を待ち望んでいたのはもしかすると女としての本能だろうか。
勿論、凶暴なまでに大きく膨らんだ兄の性器を受け入れるにあたって、多少の痛みや苦しさを覚えてはいたものの、それに勝る劣情が裕子をどうしようもなく急かし、穿たれ暴かれる瞬間を今か今かと待ち望んでいたのだ。
「……動くぞ、いいな?」
そして、ゆるゆると開始される不埒な律動。
自身の細胞を粘膜へと擦り付けるかのような慎重さから始まったそれはやがて箍が外れたかの如く無秩序で本能剥き出しの動きへと変わり、裕子は兄そのものの存在を自らの臓腑へ刻み付けられているかのような感覚に侵される。
「あっ、ああ! お兄ちゃ、ン……!」
下腹の中で荒れ狂うそれは、もはや快楽を超越していたのかもしれない。鋭く熱を持ち、しかしどこか温かく優しい。懐かしさもありながら未知なる衝撃を孕んだ秘密の交わりは繁殖行為というよりも、なにか神聖なる儀式のような尊ささえ孕んで二人を包み込んでいく――。
「裕子……っ。まゆ、み……!」
許しを請うているのか、それとも更に深い場所を求め彷徨っているのだろうか。兄は何度も妹の名を繰り返しながら、穿つ腰の速度を上げ、たちまち頂きへと昇りつく。
「ッ、く……!」
そんな兄の性急さがどこか愛らしくて、裕子は意図的に膣内へと力を入れ、暴発寸前のそれをぬるついた粘膜を以て何度も激しく締め付けてみせると、ほどなくして兄は奥歯を噛み締めながら獣のように低く呻きつつ、慌てた様子で自身を裕子の中から抜き去り迸りを裕子の腹の上へと吐き出した。
「あ、お兄ちゃん……」
意図せず伸びた指先が、自身の下腹へと散らされた白濁へと伸び、その生温かな精液の感触を無意識のうちに肌へと緩く塗り広げてしまう。
「お兄ちゃんの、あったかい……」
もしこれを体内で受け止めていたなら、どんなに喜ばしかったことだろうとぼんやり考えを巡らせつつ、裕子はゆっくりと瞬きを幾度か繰り返した後、急激に訪れた倦怠と脱力感によって意識を混濁させていく。
「ごめん、お兄ちゃん。私、なんだか疲れちゃって……。でも、言わなきゃいけない事とか、確かめたい事とか、沢山あるのに……」
いつから自身が兄を異性として慕っていたのか、そして兄もいつから裕子を女として意識するようになったのか。これからどうするのか、このまま関係を続けていくのか。いつか諦めなければならない時がやってくるのか――。話し合わなければならない事が山ほどある。だが、それを拒絶するように裕子の思考、そして肉体は泥のように重たくなっていく。
「……今は、何も考えるな。そのまま寝ちまえ」
裕子のまどろみを察したのであろう、兄は優しく穏やかに、しかしどこか後悔の滲んだ苦々しい声音で囁きながら、手近なタオルケットで眼前の愛液と白濁に塗れた肢体を清めつつ、赤子の寝かしつけでもするかのような仕草でこちらの肩を柔く叩いた。
「――朝になれば、きっと俺もお前も頭が冷えるから」
複雑な葛藤を孕んだ兄の嘆きめいた後悔の言葉は、裕子の耳へと届く前に夜の静寂へと掻き消えていった。