小説の御依頼はこちらから

ウルウル上目遣いでセックスのお誘い

NL小説

とても三十歳手前を迎えた成人女性のものとは思えない程に小さな掌が、躊躇いながらも微かな熱を帯びながら裕也の筋張った甲へと重ねられた。否――絡みついてきた、と表した方が適切だろうか。

薄い皮膚を隔てて浮き上がる関節の形を無意味に確かめるような仕草を繰り返しながら、その幼い形状とは裏腹に絹の如く滑らかな女性特有の質感を以て熱と溶けていく。

一体、彼女がどんな想いを抱いてこの手を重ね、汗ばんでいるのか。わざわざ言葉を用いて尋ねなくとも、分かる。だが、あえて裕也は空気を先読む無粋な真似は慎むべきだろうと、胸の高鳴りをひた隠しながら戸惑う素振りで取り繕った。

「ねえ」

情欲の熱によって蕩けた視線と、眼鏡のレンズ越しにかち合い、思わずごくりと喉が鳴る。

瞬間、互いの指が深く絡み合い、縺れ、急速に心身の距離が縮まってしまったかのような錯覚に襲われた。勿論、彼女の目論見から察するにそれは決して錯覚などではなかったのだろうが、未だ裕也は狼狽の表情を演じたまま、決定的な言葉を待つ。

「……しよ?」

指先による愛撫をしばし楽しんだ後で絞り出されたその囁きは、潤んだ眼差しも相俟ってか非常に背徳的だった。

だが、ここでも裕也は己の欲望を腹の内にひた隠したまま、はてと無知を装って彼女の熱には気づかない振りを続行する。

「なにを、したいんですか」

尋ねると、興奮に濡れた愛らしい彼女の双眸がほんの僅か、瞠目した。まさか、この期に及んで惚けられるとは思いもしなかったのだろう。

向けられた視線の中にほんの僅か、まるで幼い子供が拗ねた時のような不機嫌の気配が浮かんだものの、どうやら彼女が現在抱えている劣情の奔流は多少の揶揄い文句で堰き止められるようなものではなかったらしい。

「裕也と、えっちなコト」

「僕と?」

「……ん」

「どうして?」

「好き、だから」

そう紡いだ愛らしい唇を、一思いに奪い去りたいという衝動が爪先から急激にこみ上げてくるのが分かった。

だが、裕也はそれでも取り繕う事を止めない。何故なら今の彼女が求めているものは恐らく、甘く互いに愛し合う時間なのだから。

奪い奪われるような激しい熱情を交わし合うひと時も魅力的ではあったものの、衝動に任せて彼女を抱き潰してしまうような展開はやはり本意ではない。

少々、意地の悪い駆け引きを持ち掛けてしまう事にはなるが――しかし、裕也は裕也で確証というものを定期的に求めてしまうのだ。

彼女が本当にその身を望んで預けてくれるほど、こちらに愛情だの恋慕だの、情熱的な想いを抱き続けてくれているのかどうかを。

「好きだから僕としたい、ですか」

「……なによ、駄目なの?」

ほんの僅か、拗ねるように尖った唇が、裕也の腹の内に隠した劣情を大いに煽った。

引き寄せられるようにしてそこに自身の唇を重ねると、途端に互いを取り巻く空気が甘く重たく湿度を帯びて、どろりと蕩け出すような感覚に呑み込まれる。

彼女の華奢な両腕はすぐさま裕也の首へと回され、戯れのように啄む仕草を繰り返していただけの口づけは、ほどなくして舌先を深く絡め合う情熱的な愛撫へと変化を遂げていった。

「ン、あ……」

高ぶっているのか、それとも単純に酸素を求めてなのか、嬌声とも呻吟ともつかない声が彼女の唇から零れ、思わず裕也は僅かに距離を取ってしまう。

苦しいのか、感じているのか。そういった状況を逐一尋ねていいものかと毎度のことながら思い悩んでしまうのだが、しかし意気地がない事にいつも裕也は身体を重ね合うその最中、言葉というものを無意識に封じる奇妙な癖があった。否、矜持と称した方が正しいだろうか。言葉という形をぶつけてその答えを相手に求めるのは、なんだか無粋な行為にも思えてしまうのだ。

が、しかし――彼女の方はというと、そうではないらしい。押し黙る裕也とは対照的に、つい今しがた解放したばかりの愛らしい唇は愛と肉欲を赤裸々に語りがちである。

「好き、大好き……。だからもっと、して?」

離れたはずの唇が再び惹かれ合い、重なり、交わり合う。

「きもちいい。裕也とキスするの、大好き」

「……っ、ミサト……」

昂る彼女を止めたかったのか、それとも切望していたのか。無意識に裕也は彼女の名を呼び、助けを請うように蕩けた視線をかち合わせた。

熱っぽく潤んだその双眸が求めるものは、ただ一つ。裕也が積極的には見せたがらない、浅ましく獰猛な情欲だ。

呼吸が荒くなるのを止められず、思わず奥歯を噛み締める事でなんとか理性を保とうとしたが、それは無駄骨に終わってしまう。

気が付けば互いに衣服を取り払い、シーツの波へとその身を沈めて更なる悦楽へと堕ちていた。

律動のたびに軋む寝具の規則的な物音は、存外にも性行為を妖しく彩り、二人の男女を急き立てる。

「あ、裕也……っ」

求めるような声音に惹かれて顔を覗き込めば、組み敷いたその先で彼女は息も絶え絶えに「好き」と「もっと」をひたすら繰り返し呟き続けていた。

募る熱を早く吐き出してしまいたくて仕方がない裕也はというと、そんな彼女の睦言に気の利いた返答を口に出来る余裕などあるはずもなく、今の自分に出来ることといえば愛情を紡ぎ続けるその唇にほとんど苦し紛れの口づけを繰り返すのみである。

だが、唇を重ねるたびに彼女は火照った頬を綻ばせ、幸福そうに微笑んだ。こみ上げる劣情に乱され、涙を湛えながらも蕩けた瞳は色欲が滲み出しているというのに――あまりにも可憐で、美しい微笑だった。

「ミサト、もう……っ」

絡みつく襞の感触が、堪らない。穿つ陰茎をまるで自分の一部にでもしてしまうのではと勘繰ってしまう程の一体感は、何度味わっても絶妙だ。

更に言うなれば、見下ろしたその先で微かに揺れる控えめな乳房も毎度のことながら実に愛らしく、どこまでも裕也の下心を膨れ上がらせていく。

情けがない事に、お陰で毎度長持ちはしなかった。

「……ッ、いいよ……。裕也、出して……」

裕也の限界を繋げたその場所で薄々感じていたのだろう。促しながら、彼女は伸ばした両腕を再び裕也の首にゆっくりと絡めて引き寄せる。

「全部、欲しいから……っ、裕也のぜんぶ……!」

醜い情欲と澄み切った恋慕が綯い交ぜとなり、求められるがまますべてを吐き出してしまいたくなる衝動に駆られてしまう。

本当に彼女は自分の何もかもを受け止めてくれるのだろうかという不安と、彼女ならば余すことなく呑み込んでくれるだろうという期待が交互に膨らんでは胸の奥で爆ぜ、やがてその複雑な感情は焦燥となり裕也の呼吸と脈拍をこれ以上なく乱していった。

「っ、あ……!」

「ンン、はあっ……。裕也……っ」

どちらからともなく唇が引き合い、互いの嬌声が口腔内へと呑み込まれる。

ほとんど衝動的に誘った舌先を掬い上げれば、彼女はこちらの首に回した両腕をより一層、妖しく絡めて更なる口付けを饒舌に強請り続けた。

「好き、大好き……」

今夜だけで何度耳にしたか分からないその告白が決定打となり、裕也はその腰をみっともなく震わせながらすべての劣情を彼女の内側へと吐き出してしまう。

どくり、どくりと。こちらの意志とは無関係に、未だその頭を擡げたまま興奮状態を維持している陰茎が彼女の膣内で痙攣を繰り返しているのが分かる。気恥ずかしくて堪らない瞬間だった。

しかし、そんな裕也の劣等感とは裏腹に、彼女の方は充足に満ちた表情でこちらを見上げ、まるで愛玩動物が見せるような仕草でその大きな瞳を眇めながらゆっくりと瞬きを繰り返すのであった。

そして彼女は熱に浮かされたままの唇で、こう囁く。

「ふふ、その顔が一番大好きかも」

どこまでも彼女には敵わない、と。改めて裕也は思い知らされてしまった。